皆さんのお住まいの家は、深度6程度の地震で倒壊しないような仕様になってますか?
この基準は、1978年の宮城県沖地震を教訓に1981年に改正されたものです。以前は震度5程度の基準だったのですが、被害が大きかったことで基準を上げました。その効果は大きく、1995年に起きた阪神・淡路大震災では、基準を満たした家屋での被害は少なかったようです。日本は地震の多い国なので、大きな地震に備えておきたいですね。
さて、話をお口の中に変えましょう。皆さんは、歯を抜くことになる原因についてご存知でしょうか?当院で歯を抜かなければならなかった原因の2割が虫歯、2割が歯周病です。残りの6割の原因はなんだと思いますか?
それは破折や亀裂など過剰な力が原因なのです。もっとも、破折や亀裂が起きる歯の多くが、虫歯によって神経を取った歯が多いため一概には言えないのですが、最後に抜かなければならない決定的な問題が力によるものです。
みなさんがよくご存知な虫歯や歯周病を防ぐには、感染のコントロールが大切になります。
これに対し、亀裂や破折を防ぐには、力のコントロールが必要となります。
力をコントロールするには、力に耐えられるよう歯を丈夫にすることと、歯に過剰な力を加えないようにすることが必要です。何か対策はされていますか?
冒頭に述べたように、力のコントロールを住まいの耐震構造に例えて考えるとわかりやすいと思います。
元々の歯は一番丈夫で、震度6まで耐えられる家だと考えてください。震度6までは耐えることができますので基本的には安心して暮らせます。しかし、震度7が起こってしまうと倒壊してしまいます。転んで前歯をぶつけたり、誤って石を噛んでしまのが震度7に相当し、いくら健康な歯でも欠けたり割れたりしてしまいます。
家の柱が白蟻に食われたり、地盤が緩んで柱の基礎が効いていないと、耐震強度は下がります。白蟻に食われた柱を直しても、元の柱と同じ強度にならないように、虫歯を治しても元の歯と同じ強度にはなりません。修復不可能な柱を間引けば耐震強度は当然下がります。
それまで震度6まで耐えられていたものが、震度5までしか耐えることができなくなってしまうと、震度6の地震で倒壊してしまいます。でも、震度5までは耐えられるわけですから、強い地震が起きない限り家に住むことは可能です。
よく、歯が抜けると「ブリッジでも大丈夫ですか?」と聞かれます。大丈夫かどうかはこれと同じ考え方で、耐震強度が下がっても、大きな地震が起きなければ倒壊することはないけれど、明らかに強度が落ちてるので倒壊する確率は高くなりますよとお話ししています。
耐震強度が低い家でも、地震の少ない地域であれば比較的安心して暮らせます。ブリッジにしたとしても、強い力がかからないのであれば問題は起こりません。
次の写真は、ダイレクトボンディングと呼ばれる硬質のプラスティックを詰めてからそれぞれ18年経過したものと3年経過したものです。
18年経過したものは全然問題ないように見えますが、3年経過したものは細かいヒビが入っています。これを見るとダイレクトボンディングは3年も保たないからダメじないかと思われるかもしれません。
しかし、3年経過の写真をよく見ていただくとわかるのですが、元々の歯質であるエナメル質もボロボロになっています。エナメル質はセラミックと同等の物性を持っているにもかかわらず、ボロボロになってしまっているわけですから、家に例えると震度6に近い地震が何度も起きているのと同じだと考えられます。そもそも、元々の歯が一番強度があるわけですから、どんなに頑張って補修しても、何度も強い力がかかればひとたまりもないのです。
このような、症例見てダイレクトボンディング(硬質のプラスティック充填)はダメだと決めつけてしまうのは早計な判断と言えます。このような症例では、材料を選ぶ前にどうやったら歯に力がかからないようになるかを考えなければなりません。
お口の中は、どれくらいの力に耐えられるかと、どれくらいの力がかかるかといった力のバランスを考えないで治療方針を決めることは意味のないことです。
私には多くの患者さんが、材料の強度ばかりを考え、歯にかかる力のことをあまり考えていらっしゃらないように感じていますので、今回改めてご案内させていただきました。