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なぜ虫歯は痛くないのか?象牙細管の役割

「虫歯は痛くない」の続きです。

痛みについて理解してもらうには、歯の構造を知ってもらう必要があります。

歯は表層からエナメル質、象牙質、歯髄と呼ばれる構造でできています。その素性について見てみましょう。

エナメル質は厚さが2〜3mmで、ハイドロキシアパタイトというリン酸カルシウムの一種で出来ています。エナメル質の硬さは、ほぼ水晶と同じ。鉄よりもはるかに硬いのです。

しかし、硬いといっても、引っ掻いた時の硬さであって、ハンマーで叩いた時に割れにくいという指標ではありません。ガラスのように傷つきにくいですが、落とせば簡単に割れてしまいます。金属のコップは傷つきやすいですが、落としても割れないですよね。そんな違いだと思って下さい。

弱点もあります。酸には弱く溶けてしまうのです。これが、虫歯菌に付け入る隙を与えてしまっているのです。

エナメル質の下は象牙質と呼ばれる硬い組織でできています。象牙質もエナメル質同様ハイドロキシアパタイトで出来ているのですが、その含有率が70%とエナメル質の98%に比べ低く、その他素性が20%の有機物と10%の水分となっているためエナメル質に比べると柔らかいものとなっています。

エナメル質に比べて柔らかい反面、割れにくいという性質を持っており、エナメル質は割れても象牙質は割れないという現象が起こります。歯にヒビが入っていても症状なないような場合が、エナメル質だけのヒビ割れと考えることができます。粘りがあるとも言えます。

ハイドロキシアパタイトの含有率がエナメル質に比べて低い分、酸にも溶けやすいという欠点があります。虫歯の進行はエナメル質に比べ象牙質の方が速く、入り口は小さいが中で広がっているといった現象を引き起こします。

象牙質の下には歯髄と呼ばれる神経血管組織があります。ここに、痛みや温度を感じるセンサーが存在します。物を噛んだ時に熱いとか冷たいといった温度感覚はこのセンサーに刺激が伝わることで脳がそれを認識します。(噛んだ時の硬さの感覚は歯の周囲にある別のセンサーが感じています。)

歯の表面に加わった温度刺激が、硬いエナメル質や象牙質をどのように伝わっているのか?実はまだ解明はされていないようです。ただ、有力な説が象牙質の中にある管にある水分が熱によって膨張したり収縮したりして歯髄に物理的な刺激を伝えていると考えられています。

この管を象牙細管と呼んでいます。ちょうどイチゴを切った時に中にある筋のような走行をしていて、歯髄から表層のエナメル質に向かって伸びています。

象牙細管の中は水分で満たされていて、エナメル質が温められるとその水分は膨張し、象牙細管の歯髄側にあるセンサーを押します。逆に冷たいものによって水分は収縮し、センサーが引っ張られるといった仕組みです。

例えていうなら、水で満たされたホースの端から水を押し出して反対の端にあるボタンを押すようなものです。

エナメル質にはこのような管はないため、象牙細管のエナメル質側は管に蓋がしてある状態と言えます。

ところが、このエナメル質がかけて無くなってしまったらどうなるでしょう。象牙細管の蓋の役割がなくなりますから、とても刺激が伝わりやすくなってしまいます。

管の蓋が開いてしまうと、そのほかの刺激にも反応しやすくなります。

その一つが、浸透圧です。

浸透圧とは塩や砂糖などの物質が、濃度が異なる状態で混ざり合った時に、水分が濃度の濃い方に引き寄せられ、濃度の差が大きほどその圧力は強くなるといった現象のことを言います。

つまり、象牙細管の蓋が外れている時に、砂糖水がその入り口に触れれば、細管内の水分が差砂糖水に引き寄せられ、歯髄にあるセンサーに刺激が伝わるといった仕組みです。

当然お塩でも同様の現象が起こるのですが、濃度の濃い砂糖はスイーツと呼ばれよく食されていますが、同様の濃度を持つ塩は食品として食す機会がないため、甘いものだけがしみるという経験を持つことになっているのです。

このように、熱いとか冷たいとか痛いといった感覚は象牙細管の中に入っている水分を動かすことで引き起こされているのです。

では、虫歯になるとどうなるのでしょう?

虫歯は歯質が菌によって壊されたものです。虫歯は歯の表面から起こります。つまり、象牙細管の先端の組織が破壊されたことになります。するとどういうことが起こるのでしょう?

破壊された組織が取り除かれれば象牙細管の端が露出してしまうのですが、破壊されたままに残っていれば、これが蓋の役割をしてしまうのです。

つまり、蓋をされた象牙細管は反応しにくになるのです。

もうお解りですね。虫歯になると、象牙細管は厚い蓋をされたことになり、かえって痛みを感じなくなってしまうのです。

その証拠に、歯を治療する時に虫歯だけを削っている限り、患者さんは痛みを感じません。
虫歯を削り進めて、健康な象牙質に近づくと初めて痛みを感じます。

そして、虫歯がとても大きくなり、神経に近づいてくると、細菌が象牙細管を伝って歯髄内に侵入し、炎症を引き起こします。炎症が起きると組織圧が高まりますから、腫れ物を触るような状態になり、わずかな刺激にも敏感に反応するようになってしまいます。

この段階まで来て初めて、「ズキンズキン」と歯が痛むといった症状が出て来ます。

ですから、虫歯の痛みは、虫歯自体が痛みを引き起こしているのではなく、虫歯によって大きく歯質が崩壊することで歯髄に痛みが伝わりやすくなることが原因だということになります。

如何でしょう?「虫歯は痛くない!」という主張、理解していただきましたでしょうか?

平野 恭吉平野 恭吉

平野 恭吉

ヒラノデンタルオフィス 世田谷区用賀4−12−4

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