コラム

最先端機器

CTとマイクロスコープを導入

当院は、今年現在の位置に移転しました。移転に伴い、スペースや基礎工事の問題でこれまで導入できなかった歯科用CTとマイクロスコープ(拡大率3倍〜25倍の拡大鏡)を導入することになりました。CTは提携医院で撮影を行なっていましたから、それほど不便に感じていませんでしたが、マイクロスコープは手元にないと役立ちませんから以前から欲しかったものです。しかし拡大率が高くなるとちょっとした振動でも大きく揺れて見えてしまうため、しっかりとしたコンクリートの基礎に固定する必要があり、以前の診療所では許可してもらえず導入できませんでした。

診療所の移転により晴れてマイクロスコープを導入して日々の治療で活用しています。また、歯科用 CTも9月ごろの導入を予定しており、手軽に診断ができるようになると思います。

現在歯科用CTやマイクロスコープは多くの診療所で整備されて、今や歯科医院を新規開業するには必須アイテムとなってます。そして、皆さんには、最新の機械を取り揃えた歯科医院は、ハイレベルの治療を受けることができる一つの目安となっているのかもしれません。

しかし、古参の歯科医師からすると、「ずいぶん無理してるなあ。」と思うのです。歯科医院を開業するのには莫大な費用がかかります。私が開業した時でさえ、どのように資金調達するかが難題でした。今は、内装工事日も震災後に値上がりしましたし、医療機器も日進月歩で価格も値上がりしていますので、さらに難しい状況になっていると思います。

ベーシックな設備を整えるだけで大変なのに、さらに高額な機器を用意するとなると本当に大丈夫なのかと考えてしまいます。

心配は初期費用だけではありません。昨今歯科医院は増えることはあっても減ることはありません。用賀4丁目だけでも10年前から4〜5件増えています。診療報酬が増額した訳でもありませんから、以前に比べて歯科医院の経営は難しいものになっていることは容易に想像できます。しかも、CTやマイクロスコープはごく一部しか保険算定が認められないため、保険診療だけでは採算は取れません。

なぜ最近の歯科医院はCTやマイクロスコープを新規開業時から入れるのか?

では、なぜそれほどのリスクを冒してまでCTやマイクロスコープを導入するのか?

「最新の設備を整えると患者さんが来てくれる。」と考えるからです。医療では広告が制限されているため差別化が難しく、新規で開業するにはわかりやすいアピールポイントが必要なのです。

そういった歯科医師サイドの考え方もあながち間違いではなく、実際に多くの方が設備を歯医者探しのポイントとして見ているようで、当院にも時々「CTを置いていますか?」とか「マイクロスコープの診療はしているのか?」といった問い合わせがあります。

でも、ここまでは皆さんにとっては当たり前のことかと思いますが、ここからのお話が今回の本題です。

CTやマイクロスコープがあるからといって、良い治療ができるわけではない。

CTは診断機器です。どこが悪いのかを立体的に把握することができるとても素晴らしい装置と言えます。でも、どこが悪いかわかったからと言ってそこを治せるわけではありません。治療方法は、CTがあってもなくても同じです。

マイクロスコープも、よく見えるようになるだけで、治療技術が向上するわけではありません。マイクロスコープは、ルーペ(メガネに拡大鏡が固定してあるもので、倍率は数倍程度)よりもはるかに良く見えるのですが、視野が固定されてしまうため、歯を削ったり、詰め物をしたりするのにはルーペの方がはるかに使いやすいのです。もちろん、マイクロスコープも慣れると効率的に治療ができるようですが、私はルーペをメインに使用し、細かいところの確認にマイクロスコープを使っています。

つまり、歯科用CTもマイクロスコープも治療の補助機器であって、それらを導入すれば歯医者の腕が上がるわけではないのです。便利な調理器具を買っても、必ずしも料理が上手になるとは言えないのと同じことなのです。ちなみに私の大学の同期のLINEグループ20名のうちマイクロスコープを使用しているのは私を含め3名だけです。CTも同様です。

私は歯科用CTやマイクロスコープを無駄なものと否定するつもりは全くありません。むしろ、スペースの問題で導入できなかっただけで、前からずっと欲しいと思っていたものです。

私が否定しているのは、「最新鋭の機器があれば高いレベルの治療ができる。」という考えなのです。特に日本は機器の性能に頼りがちで、高性能なものを無条件で受け入れる傾向にあります。その考え方で歯科医院を選ぶ人も多いので歯医者も最新鋭の機器を入れて、患者さんを集めようと考えてしまうのです。

歯医者もその傾向が強く、同業者の多くは私は必要ないと思うような高性能な機器を購入し、上手くなったような気でいるのです。

全ては歯科医師の腕次第

残念ながら歯科治療はインプラントを除き根本的には昔と全く変わっていません。虫歯があれば、削って詰め物をする。虫歯が大きくなれば神経を取って被せ物をする。歯が抜ければ、入れ歯やブリッジにする(新たにこの30年でインプラントが普及してきました)。歯周病になれば、歯石を取って炎症を抑える。

これらの治療は、ロボットがしてくれる訳ではりません。昔から全て歯医者が自らの手で、ドリルを持って歯を削り、自らの手で詰め物や被せ物をするのです。

全ては、歯医者の腕にかかっていると言えます。

どれだけ最先端の機器を備えているかではなく、どれだけ1本の歯と向き合って丁寧に治療をしているかを読み取って歯科医院を選ぶべきではないでしょうか。

平野 恭吉平野 恭吉

平野 恭吉

ヒラノデンタルオフィス 世田谷区用賀4−12−4

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