1枚目のレントゲン写真をご覧ください。右上の犬歯のレントゲン写真です。
根の先端に、ろうそくの炎のような黒い陰があるのがわかりますか?これは、歯の根の中に細菌が繁殖し、根の先で嚢胞(膿みの袋)が形成されています。
レントゲンでは、このように大きな陰があるため、さぞかし痛そうに思いますが、患者さんはほとんど痛みを感じることはありません。そのため、レントゲン写真を撮った際に初めて気づかされることが多い疾患です。歯周病と同じで、沈黙の病といえます。
この症例の場合、顔を洗ったりするときに、鼻の横あたりに違和感を感じた程度だったそうです。それでも、疲れたりすると重い感じがしていたので、気にはなっていたそうです。
治療法としては、根の中にいる細菌を取り除いてあげればよいのですが、これには、二通りのアクセスの仕方があります。一つは、歯冠(お口の中に見えている部分)側より穴をあけて、根管(神経の入っていた管)を消毒する方法。もう一つは、歯肉を切開して外科的に根の先にアクセスし、嚢胞を除去する方法です。
基本的には、歯冠側よりアクセスするのがセオリーです。それで約6割は治ると言われています。それでも治らない場合に歯肉を切開して外科的に除去する方法を選択します。
この症例も、最初は歯冠側よりアクセスして経過を見ていたのですが、数ヶ月経ってもレントゲン写真に写る嚢胞の大きさが小さくならないために、外科的な処置を行うこととなりました。
歯肉を剥離して骨までアクセスしたとことです。骨の中に水たまりのようにある柔らかい組織を、スプーンのような器具で取り除くと骨にぽっかりと穴があいてしまいます。中心には感染源げある根の先端が見えますので、超音波で先端を削るようにきれいにしいきます。
最後の写真は、ルーペで汚れがないことを確認した後に、PRGF(成長因子)を入れて歯肉を元の位置にもどしているところです。
患者さんに術後の経過を伺ったところ、2日ほど少し腫れたものの、痛みはさほどなく、痛み止めを1錠だけ飲んだ程度で治まったそうです。皮膚にこれだけの切開を加えればかなり長く痛みが残りますが、お口の中は遥かに軽い症状で済んでしまいます。なかには、腫れも痛みもなかったという症例も結構あります。
歯根嚢胞は、痛みを伴わないため、患者さんにとっては青天の霹靂のようなものなのでなかには治療をいやがる患者さんもいらっしゃいますが、放置すれば細菌が血液を介して体中に回る危険があり、とても怖い疾患です。
なかでも、心内膜炎(心臓の内側の膜に細菌が付着して心臓の内面がぼろぼろになってしまう病気)は非常に深刻で、根尖病巣が原因で心内膜炎を起こしてしまった患者さんを玉川病院に勤務していた際に何人も見てきました。
小さな嚢胞だからといって、決してあなどることはできません。