インプラントを検討されている方は多いと思います。しかし、中には骨が無いためにインプラントが出来ないと断られた方もたくさんいらっしゃいます。今回は、通常ならインプラントが入れられなくなるケースを、ざまざまな方法で骨を作った症例をお見せします。
写真をご覧ください。右下のブリッジの土台となっている奥歯の根の周囲の骨が無くなっています。黄色のラインは、太い神経の走行を示しています。普通に抜歯して通常の長さのインプラントを入れれば、神経を傷つけてしまいます。少なくとも神経より2mm上でインプラントを止めなければなりません。
このようなケースにインプラントを入れるには2つの考え方があります。
積極的な骨の再生は行わず短いインプラントをたくさん入れる。
骨を作って、理想的な長さのインプラントを最小限の本数で入れる。
このケースでは、さらに歯周病と歯ぎしりなどのリスクがあり、まずは骨を再生させその後安全な本数のインプラントを入れるということになりました。
まず行ったのが自然挺出です。人間の体はとても良く出来ていて、不要なものを体の外に出そうとします。歯も感染していれば、ご多分に漏れず排出されます。写真は、ブリッジを外して歯の根を分割し、何もせずにしばらく放置しておいたものです。感染した歯が伸び出しています。
健全な組織の周りには再生が起こります。歯の根の先端は健全な組織ですから、伸びた分だけその周囲に骨が再生します。草を抜く時に一緒に周囲の骨が盛り上がって来るようなイメージです。
自然挺出が止まったところで、矯正装置を付けて積極的に引っ張り出します。歯の根にフックを付けてゴムで引っ張っています。同時に骨も引っ張られるように再生してきます。
引っ張り出しが終わったら、抜歯ですが、抜歯すると周囲の骨が3割程目減りすると言われています。それを防ぐために、ソケットプリザーベーションといって骨の目減りを防ぐ処置を行いました。今回は、非吸収性の膜を抜歯した穴に被せて骨の再生を助けています。また、PRGF(成長因子)を入れて再生のスピードを速めています。
そして、先日インプラントを入れました。インプラントの先端は、太い神経まで安全な距離が確保されています。実は抜歯した部分の骨は十分にあったのですが、既に抜いてあった部分(写真の右側のインプラント)の骨の幅がなく、インプラントを入れる時に人工骨を使っています。
術前と術後のレントゲンを重ね合わせてみました。骨の高さが変わっているのがお分かり頂けますね。少々時間はかかりましたが、骨を再生する手術をすること無く、骨を再生させることが出来ました。
実は、骨の幅を回復させることは易しいのですが、高さを回復させることは非常に難しいと言われいます。今回のケースでは、その非常に難しい高さの回復を、手術をすること無く回復させたという点では、患者さんに取って非常にメリットのあることだったと思います。
インプラントを入れるのであれば、このように歯を抜く時から先のことを考えて、治療計画を立てていくことで、より確実なインプラント治療が可能となります。
歯を抜いた後にインプラントを考えれいらっしゃるのでしたら、抜く前に一度ご相談ください。もちろん、既に抜いてしまっていても、いろいろと方法がありますので、ご心配なく。