歯科医師になってもうすぐ30年になります。これまで、様々な臨床経験をしていろんなことが見えるようになってきました。と同時に、これまで経験したことのない症例に出会う頻度も決して少なくはなく、まだまだわからない事だらけだと感じることもあります。しかし、経験を積んで仕事に自信がつくにつれて徐々に図々しくなってくるものです。これまでは、自信のなさから公言することをためらっていたようなことも、そろそろホームページのような場所で、本音で語ってもいいと思うようになりました。そこでこれからは「歯医者の本音」を包み隠さずお伝えしていこうかと思います。
今回のお題は「治療は材料で選ばない!」
例えば虫歯の詰め物を、セラミックとプラスティックどちらも5万円だとしたらどちらを選びますか?
おそらく、多くの方がセラミックを選ばれるのではないでしょか。
みなさんは「セラミック=高いけど丈夫で長持ち」「プラスティック=安いけれどすぐダメになる」というイメージを持たれていませんか?
では次の写真をご覧ください。
これは当院で治療したものではないのですが、セラミックを入れ数年経過したものです。
これは私がかつてプラスティックで治療したものです。記録を遡ってみたら18年前に治したものでした。これだけ年月が経っても全く問題はありません。まだまだ軽く10年は持ちそうです。
ここでよく考えてみて下さい。例えば金属とセラミックであれば「歯を削って・型を取って・技工所に製作してもらい・歯に接着させる」といった治療技術に違いはないため単純に材料の比較をすれば良いのですが、金属やセラミックに比べ、プラスティックで治療する場合、歯を削る量は極端に少なく、型を取る必要もなく、1回で終わるという治療技術に明らかな差があるもにもかかわらず、材質の比較だけで治療法を決めるのはナンセンスだと思いませんか。
長持ちするものを選びたいのであれば、「材質がどれだけ長持ちするのか」で選ぶのではなく、「治療した歯がどれだけ長持ちするのか」で選ぶべきなのです。
ちなみに、当院ではプラスティックで治療した場合は1本約2万円です。セラミックより高い技術が必要であるにもかかわらず2万円です。他院のセラミックが高いわけではなく、当院ではこのサイズの虫歯だとセラミック治療は行っていませんが、当院でもセラミックなら最低5万円に設定します。
なぜセラミックが5万円でそれより経過が良く高い技術を必要するプラスティックが2万円なのか?
その理由の一つが、みなさんが材料を基準に評価するだけで、技術の評価をする風潮がないため、私たち医療サイドが技術が材料ベースで報酬設定をせざるを得ないのという事情があります。
もう一つが技術というのはその良し悪しを伝えにくいといったことがあります。実際、本当に技術が優れているかどうかは、何年も経ってからでないと判断できないことも多く、さらに奥歯などはみなさんが鏡で見てもよく見えないためにわかりづらいといった事情もあります。
上記でご覧いただいた治療の結果をご覧いただければ、セラミックが2万円でプラスティックが5万円だとしても皆さんに納得していただけるのではないでしょうか。
最近、初診の患者さんにはいつもこのようにお話しします。
「みなさんは、詰め物(修復物)に硬くて丈夫な材料を求められます。それは、歯よりも詰め物の方が大事であるかのような考え方です。みなさんが丈夫で長持ちさせたいのは、『歯』であって『詰め物』ではないと思います。詰め物は壊れてもやり直しできますが、歯が割れたり虫歯になってしまったらもう元には戻せません。詰め物がどれだけ長持ちするかではなく、歯がどれだけ長持ちするかという観点で治療法を選んでください。」