先日政府が「骨太の方針」で、国民皆歯科検診が盛り込まれ、さまざまなメディアで取り上げられています。具体的なことはこれから議論されるようですが、歯科医療のサイドからみると、「やっと踏み込んだ政策に着手してくれたか。」といった思いです。
しかし、今回「義務化」という単語がついただけで、世間はちょっとした騒ぎになりました。確かに、私もいきなり義務化というのには、得策とは考えていません。
こういった政策を行う場合、国民がその必要性を感じていない限り、うまくいかないのではないかと考えています。
お口の健康が全身の健康にも大きく影響を及ぼしている
歯の疾患は、さまざまな全身疾患を引き起こすことが知られていています。「心内膜炎」「脳梗塞」「糖尿病」「早産」などを引き起こすことは、かなり以前から知られていて、そのメカニズムもかなり解明されています。歯の喪失数と認知症リスクの相関も、厚労省の統計で明らかになっており、歯を多く失っている人ほど認知症になりやすいということがわかっています。
また、10年ほど前には「大腸癌」との因果関係も明らかになり、私たちもそんなところまで口腔内細菌が健康に影響を及ぼしているとは想像しておらず、正直驚きました。(次回にでも詳細はブログでご案内します。)
このように「循環器系疾患」「認知症」「癌」など日本人の主たる死亡原因に歯科疾患が大きく関わっているにもかかわらず、国民にはあまり知られていません。
政策として、歯科検診を義務化すれば、このような歯科疾患から引き起こされる全身疾患が減り、医療費も削減され、健康な人が増えることで生産性が向上し、経済活動も活発になることが予想できるのですが、その意味を国民が理解しないといけません。
キャンペーンで「健康教育」
そのためにまず、「健康教育」を行うことが必要です。おそらく、手っ取り早いのが地上波のTVや新聞、雑誌などのキャンペーンを行うことでしょう。
皆さんは「うつ病」についてご存知ですよね。しかし、これほど「うつ病」が認知されるようになったのはこの10年から20年のことで、それまでは「うつ」といえば「躁うつ病」としか知られていませんでした。これほど認知されるようになったのは、製薬会社が疾患啓発広告を行ったためなのです。これには、行き過ぎだという批判もありましたが、かなりの効果があったことには間違いありません。
そして、もっと根底から健康教育を普及させることが、真の国益ではないかと思います。以前、「医学を義務教育に」「英・数・国・医」と題してその必要性をブログに書いたことがありますが、国民が医学に関する知識を持つことは、国民の健康に寄与し、医療費を抑制することになることは明らかだと思います。(約10年前のコラムですが、日経新聞の全国版に掲載してもらえましたので、そのように考える人も多いのではないかと思います。リンク先のブログも是非お読みください。)
初等教育は大切
当院を受診された方はよくご存知かと思いますが、そのような考えに基づき、初診時に1時間かけて患者さんのお口の中にまつわる歯科医学的な説明を行っています。そこで感じるのが「先入観を崩すことの難しさ」です。
私は初診時に「虫歯は痛くないです!」とかなり強調して説明するのですが、しばらくすると患者さんから「歯が痛いので虫歯ができたと思いますから治してください。」と頻繁に言われます。その都度「虫歯は痛くないとお話ししませんでしたか?」というと「そうだった」と照れ臭そうにされます。
不思議なことに、小さな頃初めて習ったことは、強い記憶として定着してしまうのです。初等教育で正しい医学的な知識を与えることは、小さな労力でとても大きな影響を与えることになるのです。
地道な普及活動が必要
当院では、これからも日々の診療を通して、微力ながら歯科医学の正しい知識を普及させていきたいと考えています。治療時の説明はもちろんのことですが、ホームページにもたくさんの医学的な知識を掲載して、より多くの皆さんに見識を広げていただきたいと考えています。この機会に当院のホームページをご覧いただけたら嬉しいです。