今回はちょっと難しい内容になっていますので、難しいところは飛ばして読んでください。
大腸癌と歯周病
2011年に大腸癌患者の大腸組織から歯周病の原因菌が多く検出され、それらの因果関係が指摘されるようになりました。
これは、口の中に存在する歯周病の原因菌が大腸に届くと大腸癌になりやすいということのようですが、歯周病の方が全て大腸癌になるわけではありません。
本来、消化器官が正常であれば、口腔内常在菌は大腸まで届きません。胃の中で胃酸により無菌化されてしまうからです。ところが、胃潰瘍の原因として有名なピロリ菌に感染すると、胃酸の分泌量が減少し、口腔内常在菌が胃で分解されることなく通り抜けてしまうのです。
つまり、ピロリ菌に感染している方が、歯周病になると、大腸癌になるリスクが格段に高くなるということです。
歯周病が引き起こす恐ろしい病気
歯周病と全身疾患の因果関係はそれだけではありません。
一番よく知られているのが、感染性心内膜炎で、心臓の弁に歯周病の原因菌が付着し、弁膜炎や弁破壊を引き起こすことが知られています。最悪の場合、心臓を止めて心臓の手術になることもあります。
また、歯周病菌が循環器系の疾患(脳梗塞や心筋梗塞)などを引き起こすこともよく知られています。
これらの疾患は、歯周病菌が血液の流れに乗って体の至る所に飛んでしまうことによるものです。
私が近くの総合病院に勤務していた時には、看護師さんからお口の中の細菌が原因で大病する患者さんの話を度々聞いています。
周病と早産・低体重児出産の因果関係もわかっています。妊婦さんが歯周病にかかると,歯周組織で産生された炎症性物質が血管を通して子宮内に移り,子宮内での濃度が上昇して分娩が促され早産に至ると考えられています。
歯周病と糖尿病
糖尿病と歯周病の因果関係も興味深いです。30年くらい前に私が大学にいた頃は、糖尿病の方は歯周病が進行しやすいと教わっていたのですが、現在では歯周病が糖尿病を悪化させることも分かっています。
そのメカニズムは難しいので興味のある方だけ読んでください。『歯周病菌が出す内毒素と呼ばれる毒素がたくさん出てくると、体はこれを排除ししようとします。そして、体を守る免疫システムが働きを活発化させるような物質を多量に作り出します。特に、内臓脂肪組織でこの物質を多量に産生するようになります。この物質が、血糖値をコントロールするインスリンの効きを障害し、血糖が下がりづらい状態になってしまうのです。』
虫歯も歯周病も沈黙の病
このように、歯周病は重篤な全身疾患を引き起こします。にもかかわらず、歯周病は沈黙の病と言われ、自覚症状が出た時にはかなり進行していることが多いのです。また、当院に通ったことのある方やホームページを隅々までご覧になった方ならお気づきかもしれませんが、虫歯も痛くないので実は沈黙の病です。
沈黙の病が厄介なのは、症状が出た時にはかなり進行してしまっているということなのです。
歯も歯周組織も一度ダメージを受けると基本的に回復することはありません。失ってからでは遅いのです!
症状がないから大丈夫と考えず、必ず定期検診を受けましょう。