最近、臨床から離れた話題が多かったので、今日は久しぶりに臨床の話をしたいと思います。
昨日、PRGFのユーザーシンポジウムに参加してきました。PRGFはBTIというスペインの会社が開発した再生療法なのですが、スペインの医療技術の推進を国がバックアップしているようで、なんとスペイン大使館でシンポジウムが開かれました。
私のような身分ではビザを取る時しか大使館なんて入れませんし、最近はビザなしで入れる国が多いので、大使館なんて入るチャンスは滅多に無くなりました。大使館というものは不思議なもので、1歩足を踏み入れればそこは異国のようなところで、さしずめ大使館の門は「どこでもドア」みたいなものです。
スペイン大使館の出で立ちは、白い壁にオレンジ色の屋根で、透き通るような冬の青空に妙にマッチしていました。中に入ると、床も壁も天井も真っ白な細長い通路があり、それを抜けると日の光のさんさんと降り注ぐ真っ白な部屋につながっています。それでいて、扉やサインは、赤やオレンジ等の鮮やかな原色が使われ、いたるところに大きな絵やら写真やらが飾ってありました。
残念ながら、セキュリティ上館内撮影禁止となっていたので、写真はありませんが、我が家から40分のスペインがそこにありました。
さて、本題ですが、PRGFとは何ぞやということをご説明しなければなりません。
まずPRですが、これはプレートレットリッチ、つまり血小板の濃度が高いという意味です。血小板は血液を凝固させるのに重要な役割を担っている血液中の細胞です。この中には、血液凝固を開始させるシグナルがたくさん入っています。
その中にGF、グロースファクター、つまり成長因子というのが入っています。この成長因子というのは、まだ未熟な細胞に分化を促す作用を持っています。
なんだか難しくなってきましたか?もうすこし分かりやすく説明しましょう。
グロースファクターというのは、まだどんな形になるか決まっていない未熟な細胞(未分化細胞)に、血管を作る細胞になりなさいとか、コラーゲン等の繊維を作る細胞になりなさいとか、骨を作る骨芽細胞になりなさい、といった命令書みたいなものです。
ですから、PRGFというのは、血液の中から成長因子と呼ばれる命令書みたいなものをたくさん取り出して、早く治ってほしいところに注入してやろうというシステムなのです。
よく似たシステムにPRPというのがあり、最近では美容の皺取りに使われていてご存知の方も多いかと思いますが、PRGFには炎症を引き起こす白血球が含まれていないため、PRPより優れているのではないかと注目を集めています。
その応用分野は、皮膚の再生や靭帯の治癒の促進などにも広がっています。歯科領域では、PRGFは骨の再生を期待して使われています。
術式はとても簡単かつ安全です。まず、患者さんの血液を20CC程採取し、ある回転数と時間遠心分離器にかけ、赤血球と白血球と血小板を分離します。そして、その血小板だけを取り出して、患部に応用するだけです。他の異物は何も入れません。傷口に唾を付けるよりも安全かもしれません。
これだけのことで、治癒が早まるのならこんなに都合のいいことはありません。では、なぜこんな魔法のような治療法が知られていないのでしょうか?
一つは、まだその効果についての科学的根拠が十分ではありません。また一つには、まだ開発されて10年くらいしか経っていません。しかも、スペインというあまりメジャーではない国で開発されたため、スペイン語で書かれた文献はたくさんあるのですが、英語で書かれた文献が少なく、あまり世界に広まっていないのも一因だと思います。
日本に入ってきたのもまだ1年半くらい前のことです。シンポジウムのユーザー発表もまだ半年程の経過しか経っていないものが多く、確実な成果を提示している発表は一つもありません。
私も、まだ40症例くらいで、一番長い症例でも1年半前のものしかありません。そして日本のユーザーはまだ100名に満たないのではないでしょうか?
では、なぜ私はこのシステムを導入したのでしょう?
・文献の数は少ないのですが、どれも効果があるという結果が出ていること(PRPははっきりとした効果が認められないという文献が多数出ています。)。
・アメリカの著名な臨床家がその効果を高く評価していること。
・自己血であるために副作用がないということ。
・他の製剤に比べて安価であること。
ですから、やらないよりやった方が効果が期待できるし、万が一効果がなくても副作用は全くありませんよということです。
現在、当院では歯周病の手術や抜歯後の治癒促進、インプラントのための骨造成などに用いています。自分の血液から取り出した成分で治療効果を高めるというのですから、究極にエコな技術なのかもしれませんね。関心のある方はお尋ねください。
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