いらなくなった親知らずを有効活用
親知らずは、とかく邪魔者扱いされますが、実は歯牙移植を考えた場合とても役に立ちます。
上から下へナイスパス
患者さんは40代の男性で、右下の第一大臼歯が痛いと訴えて当院に来院されました。よく観察してみると、歯が割れており保存不可能な状態でした。歯を抜くからには抜いた後のことを考えなければなりません。歯が無くなった場合のオプションは、①なにもしない②ブリッジ③入れ歯④インプラントそして、⑤歯牙移植があります。この方の場合、右上の親知らずに大きな虫歯があり抜歯しなければならなかったため、それを下の第一大臼歯に移植できると診断し、患者さんに同意して頂きました。
移植のメリットは
①短期間で終わる(約3ヶ月)
②インプラントと違って歯根膜という歯のクッションみたいなものが得られる
③安価である
最初の写真が初診時の写真です。真ん中の歯の周りが黒くなっっているのがお解り頂けると思います。そして、次が移植を終わって糸を抜く直前の様子です。根の長さが違うため空洞が黒い影として認められます。
移植のメリットは、歯に歯根膜と呼ばれる靭帯があるために、周囲に骨ができやすいことがあげられます。万が一うまくいかなくても骨の再生を促してくれるため、やるだけの価値はあります。
レントゲン写真を比べてみると、移植歯の下が白くなってきて骨が再生しているのがお解り頂けると思います。
移植するためには一度歯を抜かなければなりませんので、その時点で歯の中の神経はダメになってしまいます。歯を抜く前か移植した歯が安定してきた頃に根の治療を行います。当然対合とかみ合っていないので、銀歯やセラミックで被せ物を作って噛ませます。
術後、患者さんに感想を伺ったところ、「不思議な感触ですね。まさか移植ができるとは思ってもいませんでした。」ということでした。この症例では、これがベストの選択でしょう。
適応症の見極めが大切
ただし、移植の適応症はかなり限られます。まず、歯を抜いた後の穴が移植する歯より大きくないといけません。そのため根の太い奥歯を細い前歯に移植する事は不可能です。また、移植する歯が必要なので、必要のない歯がある事が条件です。
また、移植はインプラントに比べ高い技術が必要とされます。何より条件が良いかどうかを判断して行う事が成功の秘訣だと思います。