前回は接着剤がとても重要である事を説明しました。
今回は当院で使っている接着剤についてご説明します。
当院ではケースによって3つの接着剤を使っています。
1.ダイレクトボンディングと呼ばれる硬質のプラスティックの充填用
クリアフィル メガボンドFA (クラレ)
この接着剤の特徴は、
a.抗菌作用がある
b.接着力が強い
c.耐久性が高い
と言った事があげられます。
私たちが歯を削るとき、どこまでが虫歯でどこからが健全な歯質かを見分けるのは非常に難しい事です。そのため、ほとんどの症例で虫歯を取りきれていないという感覚で治療をしています。
「え?虫歯を全部取ってるんじゃないの?」とみなさんはと思われるのではないでしょうか。
正直に言います。これまで虫歯を取りきれたと思った事は一度もありません。なにも隠していた訳ではありません。いつも患者さんには「全部取りきる事なんて不可能なんです!」と説明しています。
「じゃあまた虫歯が広がっちゃう訳?」と思われますよね。
その通りです。ただし、それは抗菌作用のない接着剤を使った場合です。
メガボンドFAは抗菌作用を持っていて、取り残した虫歯の中にいる細菌をやっつけてくれます。そもそも虫歯は、細菌が出す酸によって広がって行きますので、細菌を殺せば虫歯の進行も止まります。
さらに、接着剤の中に含まれているフッ素が接着面に徐々に作用して、時間の経過とともに接着力が上がり、劣化が少ないという、きわめて特殊な特性を持っています。
これらは、他のどんな接着剤にもない特性です。
もちろん、めちゃくちゃ高価です。市販の接着剤の何十倍もします。たった1滴で数百円といった代物です。
2.神経を取った歯の土台の接着
クリアフィル ボンドSE ONE
メガボンドにも一つ欠点があります。それは、光で固まる接着剤である為に光の届きにくいところには使えないといったことです。
神経を取ってほとんど歯の根しか残っていないような場合、土台をたてて歯を作るのですが、そのときに使うのがこの接着剤です。
光がなくても固まると言ったこと意外はメガボンドFAとほぼ同じなのですが、接着力はメガボンドFAには及びません。
3.セラミックの接着
スーパーボンド
この接着剤は20年以上の実績があり、私が大学を卒業した時からずっと変わらず使われ続けているものです。
以前は、銀歯もよく入れていましたが、この接着剤程よく付くものはありません。また耐久性にも優れ、10年以上経過した症例もたくさん持っていますが、どれも素晴らしい成績を残しています。
ただし、操作性が非常に悪い為に扱いづらく、術者泣かせの接着剤です。そのため、扱う術者の技術によって発揮できる接着力が変わってしまうのが玉に瑕です。
また、メガボンドのような抗菌作用がないため、虫歯の取り残しは厳禁です。
当院ではこれら3つの接着剤を処置内容によって使い分けています。どれも優れた接着剤ですが、どれも扱い方を間違えれば全くその威力を発揮できません。
接着剤はテクニックセンシティブと言われるように、術者(歯医者)の技術によってその接着力を十分発揮できるかどうかが決まってしまいます。
家で言えば建物にあたるものがセラミックやプラスティックといったものにあたり、接着剤は住んでいる人には見る事の出来ない基礎部分にあたります。新築であれば多少基礎に手抜きがあったとしても多少の災害に堪えることができるかもしれませんが、時間が経てばぼろが出てきます。
接着技術がよほど未熟なものでない限り、歯の治療をしたあと最初の1〜2年はトラブルは余り起きません。しかし、3年以上経つと本来の接着ができていないものは、新しい虫歯が広がり、充填物の脱離や歯の崩壊が起こってきます。
結果が直ぐに出てこない為に、トラブルの原因が患者さんのお手入れの不備によるものか歯科医師の技術不足によるものかの判別が付かず、原因究明がされないまま、また同じ事が繰り返されていることが多いようです。
もし、治した歯が3年以内にトラブルを起こすようなことが度々あるのであれば、接着技術を疑ってみた方がよいのではないかと思います。その場合、歯科医の技術に限界がある訳ですから、担当した歯科医にクレームをつけたところで改善する事はありません。転院をお勧めします。
接着技術は歯科医にとってもっともベーシックかつ重要な技術といえます。皆さんもこの機会に是非接着ということに少し関心を持って頂ければと思います。