今回は、プラスティックについてお話ししましょう。
まずはプラスティックはどのようなものかお話しする必要があると思います。というのも、皆さんはプラスティックと言われてほとんどどの方が身近にある容器などのプラスティックを連想されるからです。歯科で言うプラスティックはそれとは全く違います。
歯科で使うプラスティックのほとんどはレジンと呼ばれているものです。レジンとは英語で「樹脂」というを意味ですが、歯科で使われるレジンは「アクリルレジン」PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)です。
身近なものでは、水族館の水槽に使われていたりとか、食器に使われています。非常に固くて耐久性に優れています。
しかし、歯科でそのまま使われているのは、入れ歯のピンク色をした部分や仮歯などに限られます。レジン単独では歯と同様な性質を持ち合わせていない為、セラミックの粒子を含ませて、より丈夫で長持ちするものへ改良したものが、充填剤として主に使われているプラスティックです。
イメージとしては、道路の舗装に使われているアスファルトのようなもので、よく見るとほとんどが小石や砂利などのフィラーと呼ばれる粒子を黒いアスファルトで固めたものです。内容物はほとんどがフィラーでアスファルトは僅かです。その為、アスファルト舗装の特性は砂利を堅く敷き詰めたような耐久性を得ることが出来てます。
歯科の充填(詰め物)で使われるレジンも、そのほとんどが硬いセラミックの細かい粒子が占めていて、アクリルレジンはそれらの粒子を繋ぎ止めておく役割にすぎません。その為、特性もレジンの特性よりセラミックの特性に近くなっています。
セラミックの利点としては、非常に硬く耐摩耗性に優れていて、安定した材料であるため変色や変性がないことがあげられます。反面欠点としては、高温で焼成する必要があり簡単に作ることが出来ないことと、粘りがなく脆いといったことがあります。
プラスティック(アクリルレジン)の利点として、改良により常温で硬化させることができるため、口腔内で形を与えることができ、耐久性があることが挙げられますが、欠点として、セラミックに近い硬さを持つ歯に比べると柔らかく磨り減りやすいことがあります。
これらの良いとこ取りをしたのが現在充填に使われているプラスティックというわけです。
つまり、お口の中で形を与えて詰めることができ、歯と同様な硬さと耐摩耗性を持ち、歯と同じ色合いを再現できる理想的な材料ということになります。
プラスティックとセラミックの混合物なので「ハイブリッド」「ハイブリッドセラミクス」と呼ばれたり、プラスティックよりも硬いので「硬質レジン」と呼ばれたり、複数のものを混ぜ合わせたものなので「コンポジットレジン」と呼ばれたりしています。
何を隠そう、どれも同じものです。ハイブリッドとかハイブリッドセラミックスなんて云うとなんだが最新の材料のように感じますが、1980年代に開発され使われ始めています。名前を変えて新しい材料を使っているように見せているだけです。
また、私たち歯科医師は、単独のレジンもセラミックを含ませたレジンも当たり前のように使い分けている為に、どちらともレジンと呼んで使ってしまっていることがレジン充填を単なるプラスティックを詰めていると皆さんに勘違いさせているんではないかと思います。
では、プラスティックが何故虫歯を取り除いた穴に詰めるのに最も適してるか考えてみましょう。
プラステックが金属やセラミックに比べ接着面に衝撃を伝えにくく、それが接着面、つまり歯を削った面の保護に役立つことは以前説明しましたね。これは歯を長持ちさせるための決定的なメリットだと思います。
もう一つとても大きなメリットは、金属やセラミックが技工所で作るのに対して、プラスティックはお口の中に入れて固めるだけで済むことです。削った形はどんなものでも良いため、虫歯だけを削ってそこに詰めるだけ。しかも余計な感染をさせずに1回の治療で終わるというのも、圧倒的なメリットです。
その他にも、色合わせがし易い。修理し易い。などなどいろいろあります。
中でも、歯と同じ色合いの材料である為に、万が一虫歯になった時にも判断し易いといったメリットは意外に知らされていません。あまりに深い虫歯だと難しいのですが、強光を当ててみて見ると新たな虫歯ができたかどうかを判断することができます。セラミックも同じようなメリットがありますが、金属では全くわかりません。
では、デメリットはないのでしょうか?はい、それなりにあります。
一番言われるのが、脆い。
確かに、金属やセラミックに比べ強度は低いです。強度といっても歯科では二つ考える必要がります。
一つは曲げ強さ。枝をポキっと折るように力をかけてどの位の力で折れるかという指標です。一番強いのは金属、次にセラミック、プラスティックと続きます。
ですから曲げるような力のかかる部分では使えません。例えばブリッジのような正に枝を折るような力の働く部分では無理です。
もう一つは、先の尖った硬いものを押しつけてどれくらい傷がつくかというもの。
一番強いのはセラミック、次に金属、プラスティックとなります。
そのため、以前はこれのデメリットの影響を受けにくい前歯でのみレジンが使われていました。前歯に銀歯はいれられませんし、セラミックにするには小さすぎます。前歯の中等度の大きさの虫歯であれば、レジン充填が最も適していることは歯科業界において異論はないようです。
問題は、奥歯で使うかどうか。
小さな虫歯であれば、前歯と同様レジンで十分というのも歯科界の共通認識であるといえます。
これが、中等度から大きな虫歯になった時に様々な意見が出てきます。
今のところ金属派、セラミック派が多いのは事実です。プラスティック派は少数と言えます。
正直な話、どれが本当にベストなのかは私にもわかりません。
ただ、私が何故プラスティックが一番いいと考えているのかをもう一度あげてみたいと思います。
1.歯を削るのは最小限で済む。
2.歯を削った面を接着剤で保護するのには最も適している。
3.1回の治療で済むため患者さんの負担が少ない。
4.仮の詰め物を入れる必要がないので、しみたり痛くなったりしない。
5.削ったらすぐ詰めるため、削った面への感染のリスクが少ない。
6.白く
綺麗に仕上げることができる。
7.歯と同じ色に仕上がるため新たな虫歯を見つけやすい。
8.修理がし易い。
9.セラミックに比べ安くできる。
特に奥歯の大きな虫歯にプラスティックを詰めるかどうかですが、咬頭が二つ以上残っているものであればプラスティックで、咬頭が一つのものは患者さんと相談してプラスティックかセラミック、咬頭が全くなければセラミックという基準で決めています。
(咬頭というのは奥歯の凸凹の凸の部分。上下の歯がそれぞれ凸と凹で噛み合ってちょうど杵と臼のような関係になっている。)
もちろん、患者さんの歯ぎしりや食いしばりの有る無し、残存している歯の本数なども加味しています。
プラスティックの修復をして20年近くになりますが、年々適応するケースは広がっています。少なくともこの1年奥歯にセラミックや金属のインレーやアンレーを入れたことはありません。
(インレーは奥歯の凹面にできた虫歯を修復するもので、アンレーはこれに凸面も含まれたものをいいます。)
それは、中等度の虫歯はもちろん、咬頭を修復するような大きな虫歯もプラスティックで充填てしても、良い結果を得られていると感じているからです。
正直言えば、ちょっとチャレンジかな?と思うようなものも、もちろん患者さんには承諾を得てプラスティックを詰めたものが、「結構良いんじゃない!」と思えたからななのです。
これは、近年の歯科材料の研究開発の賜物で、奥歯でも十分耐えうるような材料が世に出てきたからではないかと思います。
私の臨床経験では、奥歯でもプラスティックで十分対応できると思います。
ここで、もう一つ断っておきたいことがあります。
それは、力のコントロールができない患者さんの修復は何をやってもトラブルということです。
力のコントロールができていな方と言うのは、歯ぎしりや食いしばりが強かったり、歯科治療や歯の痛みや噛みやすさといったことが原因でいつも片側で噛む癖があるなど、一部分に集中し易い方のことを指します。
そういった方は、修復してある歯は勿論、全く健康な歯さえ割ってきます。
この場合に、金属がいいとか、セラミックがいいとか議論しても意味があるとは思いません。少なくともこういったケースは力のコントロールをして、一極集中を防ぐことが最初に行うべき治療なのです。
「プラスティックを入れたけど割れてしまった。欠けてしまった。だからプラスティックはダメなんだ。」
そうなふうに考えないで欲しいのです。
金属やセラミックの良し悪しを判断するには次のような実験が必要です。プラスティックで詰めたら割れてしまったので、金属やセラミックにしてみたところ、割れなかった。
あるいは100本セラミックと金属とプラスティックの修復を比較したら金属やセラミックが優れていた。
こういった実験は
実を言うと、セラミックで何度か割れてしまったケースをプラスティックにしたらトラブルが減ったケースは何度も経験しています。それからと言うもの、プラスティックを入れるようになりました。
とはいえ、全部良いとこ取りというわけではなく、レジンとセラミックの耐摩耗性が違う為に表面の削れ具合に差が出ることで凹凸が生じ、着色しやすくなったり、レジンの吸水性により変色が起こることいった色の問題や、レジンの硬さの特性をある程度引き継いでしまっている為に欠けやすいといった問題も抱えています。
まだ書きかけです。